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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)48号 判決 1983年5月25日

控訴人

株式会社アール・エフ・ラジオ日本

右代表者

遠山景久

右代理人

渡辺修

吉沢貞男

山西克彦

竹内桃太郎

宮本光雄

冨田武夫

被控訴人

加勢ナオ子

右代理人

松井繁明

小山久子

小池振一郎

今野久子

國本敏子

山本政明

主文

原判決を次のように変更する。

被控訴人が控訴人に対し、自動スポット編集装置の運用に関する事務に従事する労働契約上の義務を負わない地位にあることを仮に定める。

被控訴人のその余の申請を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。右取消部分については被控訴人の申請を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張並びに証拠の関係は、次に付加するほかは原判決の事実摘示(原判決三枚目表一行から二八枚目裏二行目まで)と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決三枚目表三行目から四行目にかけての「株式会社ラジオ関東(以下、単に会社という。)」を「株式会社アール・エフ・ラジオ日本(昭和五六年八月二五日変更前の商号・株式会社ラジオ関東。以下控訴人と表示しない場合には、単に「会社」という。)」に、同七行目の「ラジオ関東」を「ラジオ日本」に、八枚目裏二行目の「ラジオ関東」を「会社の番組」に、一三枚目裏三行目の「理由―」を「理由1」に改め二七枚目表三行目から四行目にかけての「第二八号証の一ないし五」の次に「(第二八号証の五は、被控訴人が昭和五二年八月二九日に神奈川県小学生野球大会において取材活動をしている模様を撮影した写真である。)」を加え、同四行目から五行目にかけての「第三一号証」の次に「(一〇〇Rの使用状況を撮影した写真である。)」を加え、裏一行目の「第一一三号証」の次に「(第九一ないし第九五号証は、昭和五四年一二月六日に被控訴人が一〇〇R業務に従事している状況とその操作内容を撮影した写真である。)」を加える。)。

(被控訴代理人)

1(保全の必要性について)

被控訴人は、現在制作局制作部に配属されアナウンサー業務に従事しているが、しかし、そのことは何ら仮処分の保全の必要性に影響を及ぼすものではない。被控訴人が編成業務部から制作部へ再配転されたのは原判決言渡しの日からわずか一九日後の昭和五六年一月一四日であり、会社は原判決にやむなく従つて形式的に右の再配転をしたにすぎない。そして、被控訴人の再配転後のアナウンサーとしての業務内容は、他の女子アナウンサーに比較してその仕事の内容、量ともに著しく差別されている。会社は、被控訴人と他の女子アナウンサーとの仕事の内容に格段の差をつけ、その能力を発揮する機会を保障せず、全く形式的に被控訴人をアナウンサーとしての業務に就かせているにすぎない。このことは、右の再配転が会社の自主的判断に基づくものではなく、原判決に強制されて不本意ながら行われたものであることを、何よりも端的に物語るものである。

更に、会社は、原判決によつて被控訴人を制作部に配転したものの、原判決を不服として本件控訴を提起しているのであるから、控訴審の判決いかんによつては、再び被控訴人を配転する危険性は十分にある。以上のように、保全の必要性は現在もなお継続しているというべきである。

2(控訴人の主張2に対する反論)

(一)  原判決が認定したアナウンサーとしての業務に従事するという職種限定の合意は、原審における疎明により十分明らかにされたところであり、原判決の認定は正当である。当審においても、控訴人はこれを否定するに足りる新たな疎明資料を何ら提出し得ず、原審での主張を繰り返すのみであつて、その主張は失当である。

(二)  ところで、控訴人は、当審においても第二次的に、「仮に労働契約締結時に職種を限定する合意が成立したとしても、その後の事情の変更により、少なくとも本件配転命令時までに右合意の効力は消滅した」旨主張するので、この点について反論する。

(1) 被控訴人と会社との間の労働契約締結の際アナウンサーとしての業務に従事するという職種の限定があつた以上、その職種の限定は当事者間の合意によるものであるから、その変更も明示的であれ黙示的であれ当事者間の合意によらなければならない。

会社は、労働契約締結後本件配転命令時までの「事情の変更」により右合意の効力は消滅したという。すなわち、会社の主張するところは、職種限定の合意は消滅したから、被控訴人はアナウンサーとしての業務以外の会社の命ずるいかなる業務にも従事しなければならず、一〇〇R業務も当然その中に含まれるという点にある。しかし、労働契約締結の際、職種限定の合意がある以上、被控訴人がその後個別に承諾しない限り、被控訴人は、アナウンサーとしての業務以外の業務に従事することを命ぜられたとしても、被控訴人において右命令に同意しない限り、その命令に従うべき労働契約上の義務を有しないものといわなければならない。

(2) 被控訴人も、入社後、時代の変遷に応じてアナウンサーとしての業務に広がりが認められてきたことを否定するものではない。しかし、アナウンサーが担当する業務全体から見れば、あくまでもアナウンスメント=アナウンス業務が中心であつて、アナウンスメントに全く従事しないとか、あるいはアナウンスメントを従たる業務としているアナウンサーは存在しない。現在、アナウンサーとしての業務の範囲に広がりはみられるものの、アナウンサーとしての本来的業務がアナウンスメントであることは、時代の変遷によつても変更されていない。事情の変更により職種限定の合意が消滅したから、アナウンサーをアナウンスメントとは全く異種の一〇〇R業務に配転することも許されるとするのが暴論であることは明らかである。

3(証拠関係)<省略>

(控訴代理人)

1  保全の必要性についての被控訴人の主張は争う。

2  会社と被控訴人との間の労働契約において職種を限定する合意は存在しない。

(一) 労働契約締結時に職種を限定する合意は成立していない。

(1) 被控訴人が会社の本件配転命令を労働契約内容に違反し無効であると主張する根拠は、昭和三六年四月一日に締結された労働契約において職種をアナウンサーに限定する合意が成立したというところにある。会社と被控訴人との間の労働契約は、昭和三六年四月一日に締結されたのであるが、その契約においては職種を限定する旨の特約は何ら明記されていない。むしろ被控訴人に対する採用辞令は「社員試用として採用し、編成局アナウンサー室勤務とする」という内容であつて、他の社員の採用辞令と何ら異なるところはない。これからすれば、被控訴人がアナウンサーとしてではなく社員として採用されたものであることはいうまでもなく、「編成局アナウンサー室勤務」というのも、他の一般職の社員におけると同様、当面の勤務場所として指定されたものであると解する方が自然である。

(2) 被控訴人は、職種限定の合意が成立したと意思解釈をすべき根拠として、会社の募集告知、特別の採用試験、採用内定段階における講習ないし実習を挙げる。しかし、これらの事実をもつて黙示的に職種を限定する合意が成立したと認めるのは正しくない。

会社が「アナウンサー募集」と告知したこと、一般職の社員に対する採用試験(筆記試験、役員面接、身体検査)に加えて、音声試験を行い、更に採用内定後約半年間の研修を実施したことは事実である。しかし、そのことが当然に被控訴人との労働契約がアナウンサーの業務に職種を限定したものであることの根拠となり得るものではない。社員としての適格性の有無を判定するために行われた前記採用試験を被控訴人も受けているということは、終身雇用制を踏まえて所定の停年まで社員として勤務し得る適格性を有しているかどうかを試験され、一応被控訴人にはその適性が認められると判定されたことを意味する。そして、社員(試用)採用後直ちにアナウンス業務に就くことが予定されている場合、その業務を支障なく遂行し得る資質・能力を有するか否かを判定したり、基礎的訓練を行つたとしても、これは当然のことというべきである。従業員を採用し、当面従事させるべき業務に支障を来さないよう基礎訓練を行つたりすることは、多かれ少なかれどの企業においても行つていることであるが、そのことのゆえに労働契約上職種ないし職務が限定されたとは解されていない。

なお、被控訴人は、一二五〇名の応募者の中からわずか五名が採用されたのみであるとして音声試験の厳しさを誇張しているが、右の音声試験なるものも第一次のものは一人当たり五秒ないし一〇秒くらいのごく簡単な音声テストで、このテスト通過者(被控訴人受験時では男子七四名、女子八二名)にはじめて受験番号を付し、じ後の試験を行つたというものである。

また、採用内定段階における講習ないし実習も「アナウンサー」に限つたことではなく、採用内定段階で実習を受けたことは決して職種限定の合意を認める根拠たり得るものではない。

(二) 仮に労働契約締結時に職種を限定する合意が成立したとしても、その後の事情の変更により少なくとも本件配転命令時までに右合意の効力は消滅した。

(1) 労働契約の締結時に職種を限定する合意が成立したという以上、契約両当事者が当該職種の内容、言い換えれば当該職種がどのような範囲の業務を行うものであるかについて、はつきりした認識を有しており、右合意はこの認識を前提としてなされたものでなければならない道理であるし、そうであれば、後に同じ業務の名称を冠しながらも、合意当時の認識からすれば異質というべき内容の業務をも包含するようになつていつたときには、当初の合意内容は変更を受けたというべきものであること、そして当初の合意により従事すべきものとされた業務範囲の限定は消滅したというべきものであることも、論理上の当然の帰結である。

したがつて、被控訴人との労働契約締結当時認識されていたアナウンサーの業務内容は何か、また本件配転当時の認識による内容は何か、その両者の間でどのような差異があるかということは、本件の職種限定の合意がなお効力を有するものか否かを判断する上で極めて重要なものになるというべきである。

(2) 本件配転命令時においてはアナウンサーに関しての狭い職種概念が崩壊してしまつていることは、当審における被控訴人本人尋問の結果によつて明らかにされた現状にも表れている。すなわち、会社においては、被控訴人も含めた女子アナウンサーがアナウンスメントを担当しないまま制作部の一員としてディレクター業務を行つたりしているのであるが、これは、競馬・スポーツ中継放送のアナウンサーのように専門性が認められる社員はそれに専念させるが、そうでないアナウンサーはアナウンス業務のほかに制作部員としてディレクター業務にも従事させ、広く活用しようという目的により、従来の放送部を廃止して、その所属アナウンサーを一部はパーソナリティ室へ、他の一部は制作部へ配転するという昭和五五年四月の組織改変とも関連しており、翌年四月の番組の大幅改編の結果、特に女性アナウンサーの場合は、従前でも少なかつた担当が一層減少し、コマーシャル・スポットの録音をするほかにはほとんど仕事らしい仕事もないという者も出てくることになるので、従来のアナウンサーにもディレクター業務を担当させることに決め、制作部会で発表したところ、だれ一人としてこれに異論を述べる者はいなかつたのである。

ディレクター業務の内容は、番組の企画・立案から始まつて企画書の作成、スポンサーとの番組内容の打合せ、キャスティング、予算作成、スタッフとの調整放送素材のチェック、番組制作指揮、編集、伝票処理等が挙げられるが、これを見ただけでもアナウンス業務とは異質の業務であることは明らかである。このような異質の業務、しかも自分のアナウンス部分もない番組のそのような業務に従事することにアナウンサーも何ら異議を唱えないということは、もはやアナウンサーといえどもアナウンス業務にのみこだわつていることが許されないことを十分認識している証左にほかならない。

また、報道部員は皆自分で取材し原稿を書いてアナウンスをしている実情にあり、その他、ディレクター業務をやつて来た小林貳郎が「午後は一番歌謡曲」(生ワイド番組)のパーソナリティをつとめるなど、他部門のアナウンサー部門領域への進出が極めて著しい現状を十分認識する必要がある。

(3) 以上に見たとおり、仮に会社と被控訴人との労働契約締結時に被控訴人をアナウンサー業務にのみ従事させる旨の合意が存したと解されるとしても、アナウンサー業務に対する認識ないしアナウンサーに対する要請が変遷、拡大し、三五、六年当時の認識からすればアナウンサーの業務ではないと考えられていた他の職種の業務にも従事するようになつたのであるから、労働契約締結時の認識に立つたアナウンサー業務に限定する旨の合意は破棄されたというべきである。

(三) 更に、被控訴人が報道部への配転命令に従つたことによつても職種を限定する合意は変更されたというべきである。

会社は被控訴人に対し昭和五〇年三月三日横浜報道制作部から報道部への配転を命じ、被控訴人は同年四月二二日から翌五一年四月二〇日まで報道部に勤務して報道部の業務に従事した。本件配転以前の過去において、合意に基づき、限定されたと称する職種以外の他の職種の業務に現実に一定期間従事していたという事実は、右合意が変更されたことを示すものと解するのが道理である。

被控訴人が昭和五〇年四月から五一年四月まで報道部に所属していた間、その勤務の一部の時間を割いてニュース(一〇分間)、コマーシャルの録音等をしていたことは事実であるが、他の時間は報道部所属の社員として報道部の業務に従事していたことも明らかな事実なのである。ごく一部の時間アナウンスメント業務に従事させたからといつても、大半の時間は報道部所属の社員として報道部の業務に従事していたのであるから、右合意の変更を認定するについて何らの妨げになるものではない。また、一年後に放送部に再配転されたといつても、それは被控訴人がその一年間の報道部員としての勤務振りから見て完全な報道部員としての定着化と戦力化計画を断念せざるを得なかつたからであつて、最初から一年間などという期限付きで報道部に配転したものではないのである。

3(証拠関係)<省略>

理由

一当裁判所は、被控訴人の本件仮処分の申請は、被控訴人が控訴人に対し、自動スポット編集装置の運用に関する事務に従事する労働契約上の義務を負わない地位にあることを仮に定めることを求める限度で理由があり、事案の性質上、被控訴人に保証を立てさせないで被控訴人の申請を右の限度で認容すべく、その余は失当(疎明に代わる保証を立てさせてこれを認容することも相当ではない。)として、これを却下すべきであると判断するものであつて、その理由は、次に改め、加え、削るほかは原判決の理由(原判決二九枚目表二行目から四二枚目表二行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二九枚目表八行目中「第一二号証」の次に「ないし第一四号証、第二一号証の二、第二四号証の一、五」を加え、「弁論の全趣旨」を「当審証人樋口忠正の証言」に改め、表九行目から一〇行目にかけて及び裏一行目の「証人」をいずれも「原審証人」に、表一一行目及び裏二行目の「申請人本人尋問」をいずれも「原審における申請人本人尋問」に、裏八行目の「通学したりして」を「通学し、そのアナウンス科を修了して」に、三〇枚目表三行目及び裏七行目の「ある」をいずれも「あり、当事者間に争いがない」に改め、表一〇行目の「五名」の次に「(男性二名、女性三名)」を加え、裏四行目の「アナウンサー講習生として」を「大学卒業前の学生でありながらアナウンサー講習生としての待遇で賃金の支給を受けつつ」に、三一枚目表一行目の「別個の」から同二行目の「こと」までを「別個に行われ、これには音声試験は含まれていなかつた(以上の事実は当事者間に争いがない。)こと及びアナウンサー以外の一般社員として採用されることが内定した者については、右(三)のように一定期間を設けてする特別の教育、訓練は行われなかつたこと」に、同七行目の「二月」を「三月二日」に、「五〇年四月」を「五〇年三月三日」に改め、裏一行目の「こと」の次に「(この事実は当事者間に争いがない。)」を加える。

2  原判決三一枚目裏九行目の「このことは、」を削り、同一一行目の「いない限り」を「いない場合には」に改め、三二枚目表四行目の「できる」の次に「のである」を加え、同八行目の「従つて」を「これに対し」に、同一〇行目の「場合は」を「場合には、」に、同一一行目中「対して、」を「対する」に、「であり」を「と解すべきであるから」に改め、裏一行目の冒頭に「契約の一方の当事者である」を加え、同三行目の「申請人」から六行目の「考えると」までを「前記認定事実及び当事者間に争いのない事実によると、被控訴人が会社に雇用される際に会社の課した採用試験を受験したのは、会社の男女アナウンサー採用のための公募に応じたものであり、その採用試験には一般社員の採用試験は課されなかつた第一次から第三次までの各音声試験が含まれており、その試験の具体的内容は前記のとおりであり、しかも第三次音声試験は、一般社員と同時に行われた筆記試験の後に行われたものであつて、これらの事情を考えると、会社が被控訴人に課した採用試験はアナウンサー採用のための試験というべきであり、更に、採用試験に合格した後においても、昭和三五年一〇月一日から社員(試用)として採用されることが内定した翌年三月中旬までの約五箇月半の期間にわたり被控訴人に対して実施された講習は、発音練習、原稿読みの練習、アドリブの練習、音声学の講義など高度の専門的、技術的なものであつたことが認められるのであつて、これらの事実を総合すると」に改める。

3  原判決三三枚目表一行目の「相当である。」の次に次のように加える。

控訴人は、社員(試用)採用後直ちにアナウンス業務に就くことが予定されている場合において、業務に支障を来さないように基礎的訓練を行うのは当然のことであり、採用内定段階における講習ないし実習もアナウンサーに限つたことではないのであるから、そのために労働契約上職種ないし職務が限定されたとはいえない旨主張するが、<証拠>によると、被控訴人に対して行われた講習は、その期間が五箇月半というかなり長期にわたるものであり、しかも、その期間中会社の講習生として賃金も支払われていたこと、講習の内容も発音、発声及び話法を中心とした特殊な専門技術に関するものであることに加えて、講師である先輩アナウンサーからは、その体験談を通して専門職意識等を教え込まれたほか、アナウンサーとしての平素の勉強の必要性、風邪を引かないための予防法あるいはアナウンスメントの技術的工夫等のアナウンサーとしての心構えについても教示を受けたこと、そして、昭和三六年に入つてからは、いわゆるニュース・キャスター、言語学の学者の講義や声帯医学者による人間の発声器官についての医学的な説明を受けるなどしたことが認められ、これらの事実によると、被控訴人が受けた講習は、正にアナウンサー養成のための講習というべきであるし、これにアナウンサー採用試験に応募してから採用されるに至る一連の経緯を併せ考えると、被控訴人と会社との間に締結された労働契約はアナウンサーとしての業務に従事するという職種の限定されたものと認めるのが相当であり、控訴人の右主張は採用することができない。

4  原判決三四枚目表一行目の「証人」を「原審証人」に、同三行目の「弁論の全趣旨」を「当審証人樋口忠正の証言」に改め、同四行目の「第一〇〇号証」の次に「、第一二七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと一応認められる疎甲第一二六号証」を加え、同五行目の「証人木島章夫の証言」を「原審証人木島章夫及び当審証人樋口忠正の各証言」に、同六行目の「アナウンサ」から一〇行目の「社員」までを「日本語を正確に美しく読み、話す技能がアナウンサーに要求される資質であることには変わりはないものの、それだけでは足りない情勢にあることが一応認められるが、それだからといつて、会社との間でアナウンサーとしての業務に従事するという職種を限定した労働契約を締結し、アナウンサーとしての業務に従事していた社員について、その労働契約の内容」に、同一一行目の「アナウンス業務」を「アナウンサーとしての業務」に改める。

5  原判決三四枚目裏六行目の「変化しつつあること」から一〇行目末尾までを「変化しつつあること、現在においては、アナウンサーの業務としてアナウンスメントに密接に関連するその周辺業務(番組の企画、制作等に関する業務を含む。)、すなわち、音楽選曲、番組企画、出演交渉、原稿・台本書き、録音テープの編集、取材活動及びその際における録音機、カメラ等の繰作などの業務をも日常的に行つているアナウンサーが多いこと、会社においてもアナウンス業務に従事するほか、ディレクター業務にも従事しているアナウンサーがあることが一応認められるが、それだからといつて更にその範囲を超え、アナウンスメントの業務にも、右に述べたようなアナウンスメントの周辺業務にも属しない業務に従事させることは、被控訴人と会社との間に締結された労働契約から逸脱した労働の態様の変更であるといわなければならない。なお、控訴人は、被控訴人も制作部の一員としてディレクター業務にも従事しており、しかも昭和五六年四月には従来のアナウンサーにもディレクター業務を担当させるようにしたところ、制作部においてこれに異論を述べる者がいなかつたが、このことは、もはやアナウンサーといえどもアナウンス業務にのみこだわつていることが許されないことを十分認識している証左であり、会社と被控訴人との間の職種限定の合意の効力は消滅した旨主張するのであるが、右主張に係る事情は、本件配転命令後のことであり、かつ、原判決言渡し後に生じた事実に関するものであるのみならず、<証拠>によると、被控訴人は原判決言渡し後である昭和五六年一月一四日制作部に配転されたものであるところ、会社においては昭和五五年四月に組織改変(職制規程、職務分掌規程の各一部改正)が行われ、従前アナウンスメントに関する業務を担当していた放送部を廃止するとともにパーソナリティ室を新設し、これに伴い旧放送部に所属していたアナウンサー八名(男性四名、女性四名)を制作部に編入し、一三名(男性一二名、女性一名)をパーソナリティ室に編入したこと、そして、ニュース・スポット及びコマーシャルなどのアナウンス業務は双方のアナウンサーが担当するが、パーソナリティ室所属のアナウンサーは主としてスポーツ番組を、制作部所属のアナウンサーは主として生ワイド番組を担当するようになつたこと、制作部所属のアナウンサーは、右のアナウンスに関する業務のほかにもディレクター業務など制作部の分掌業務と定められた業務一般を担当していること、被控訴人はアナウンス業務としてはコマーシャル、枠付け、局のお知らせ、月一回のニュースを担当するほか、生ワイド番組のディレクター業務を週一回担当していることが一応認められるのであつて、被控訴人を含め、制作部に所属するアナウンサーがアナウンス業務に全く従事していないという現状にあるものではなく、もとよりアナウンスメントの周辺業務にも属しない事務に従事しているものでもないことが明らかであるから、控訴人主張の前記事実をもつて、被控訴人と会社との間の労働契約の内容が変更されてアナウンサーとしての業務に従事するという職種限定の合意の効力が消滅したものと解することはできない。」に改める。

6  原判決三四枚目裏一一行目の「さらに」を「更に前掲疎乙第一〇号証」に、三五枚目表一行目の「疎乙第一〇号証、第二六号証」を「疎乙第二六号証」に、同二行目から三行目にかけての「アナウンサー試験を受けて採用された」を「アナウンス業務に従事していた」に、同四行目の「八人」を「一四名」に、同五行目の「五名」を「一〇名」に、同六行目の「三名」を「四名」に改め、同八行目の「よれば」の次に「、アナウンサーとしての業務に従事するという職種の限定された労働契約を締結し」を加える。

7  原判決三五枚目裏六行目の「申請人」から九行目の末尾までを「前掲疎甲第二四号証の一、五、弁論の全趣旨により真正に成立したものと一応認められる疎乙第二三号証によると、被控訴人は、横浜報道制作部に所属していた昭和五〇年三月三日東京支社制作局報道部への配転を命ぜられ、同年四月二二日右命令に従い報道部に着任し、昭和五一年四月まで同部に所属していたことが一応認められる(被控訴人が右配転命令に従い昭和五〇年四月から昭和五一年四月までの間報道部に勤務したことは、当事者間に争いがない。)」に改め、同一〇行目中「成立」から「五」までを「前掲疎甲第二四号証の五、成立に争いのない疎甲第二四号証の四」に、「証人」を「原審証人」に改め、同一一行目の「申請人本人尋問」を「原審における申請人本人尋問」に改め、三六枚目表二行目の「また」の次に「、右疎甲第二四号証の五」を加え、同三行目の「五」から四行目の「認められる」までを「前掲」に改め、同四行目の「弁論」から五行目の「認められる」までを削り、同六行目冒頭に「原審における」を加え、裏一行目の「申請人本人尋問」を「原審及び当審における申請人本人尋問」に、同七行目の「申請人」から九行目末尾までを「被控訴人と会社との間において、右両者間で締結されたアナウンサーとしての業務に従事するという職種の限定された労働契約につき、明示又は黙示の意思表示により、右職種を限定する旨の合意が変更されたものと認めることはできない。」に改める。

8  原判決三七枚目表三行目の「している」を「していた」に改め、同四行目中「争いがなく」の次に「(なお、前掲疎乙第三二号証、第三四号証、当審における被控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人は、原判決言渡し後である昭和五六年一月一四日に制作部に配転され、現在においては、同部においてその業務に従事していることが認められる。)」を加え、「成立」を「一〇〇Rの使用状況を撮影した写真であることについて当事者間」に改め、同五行目の「第三一号証」の次に「、成立に争いのない」を加え、「二、」の次に「昭和五四年一二月六日に被控訴人が一〇〇R業務に従事している状況とその操作内容を撮影した写真であることについて当事者間に争いがない」を加え、同六行目の冒頭に「前掲疎乙第二〇号証、」を加え、同六行目から七行目にかけての「疎乙第二〇号証、第二一号証」を「疎乙第二一号証」に、同八行目の「従事している」を「従事していた」に改め、同一〇行目の「させる」の次に「(この際、ロールペーパーにアドレス番号が印字される。)」を加え、裏一行目の「どうかを」の次に「ロールペーパーで」を加え、同六行目の「注意する」の次に「必要がある」を加え、同九行目の冒頭に「こうして」を加え、三八枚目表三行目の「そうだとすると」から六行目末尾までを「そして、一〇〇R関係業務が昭和五四年四月に編成業務部の所管とされるまでは、技術部の所管とされていたものであることは当事者間に争いがなく、そうだとすると、この業務は、いわば既に完成された放送素材を対象として機械的処理を行うものであつて、アナウンサーとしての資質、技能が要求されるものとはいえず、積極的なアナウンスメントの行為との関連性もなく、アナウンスメント業務及びその周辺業務を含むアナウンサーとしての業務とは異質のものというべきである。」に改める。

9  原判決三八枚目表七行目の「そうすると」の次に「、被控訴人が本件配転命令により従事することを命ぜられた編成業務部の業務は、前記認定に係る被控訴人と会社との間の労働契約の範囲を逸脱するものといわざるを得ず」を加え、裏五行目の「現在に至っている」を「その業務に従事していた」に改める。

10  原判決三九枚目表一行目冒頭から裏四行目末尾までを削り、裏五行目の「3」を「2」に改め、同一〇行目の冒頭から四〇枚目表三行目の「証人」までを「前掲疎乙第五号証、第九号証、第一〇号証、第一七号証、第二三号証、第二七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと一応認められる疎乙第六ないし第八号証、第一二号証、第二四号証及び原審証人」に、同五行目の「成立」から同七行目の「第一一〇号証」までを「前掲疎甲第一一〇号証、第一二六号証、成立に争いのない疎甲第一〇九号証、第一二九号証」に改め、裏一行目中「第一〇四号証」の次に「、第一二八号証」を加え、「証人」を「原審証人」に「申請人本人」を「原審及び当審における申請人本人」に改める。

11  原判決四〇枚目裏六行目の次に行を改めて番号「3」を付した上、次のように加える。

そして、被控訴人は、本件配転命令が無効であることを前提として、本件配転命令の効力を仮に停止し(申請の趣旨1)、かつ、被控訴人が会社の制作部に所属し、アナウンス業務に従事する地位を仮に定める(申請の趣旨2)仮処分を求めるのであるが、本件についての本案の訴訟上の請求は、被控訴人が本件配転命令により従事することを命ぜられた業務に従事すべき義務の存在しないことの確認となるべきものであると解するのが相当であるから、本件仮処分申請のうち、被控訴人が控訴人に対し、自動スポット編集装置の運用に関する事務に従事する労働契約上の義務を負わない地位にあることを仮に定める限度を超える部分については、それに対応する本案請求権を欠くこととなり、結局理由なきものとして却下を免れないというべきである。

12  原判決四一枚目表七行目の「また」の次に「、前掲疎甲第一一〇号証」を加え、同八行目の「、申請人本人尋問」から九行目の「疎甲第一一〇号証」までを削り、同一一行目の「アナウンス業務」を「アナウンサーとしての業務」に改め、四二枚目表二行目の「いうべきである。」の次に「なお、被控訴人が原判決言渡し後である昭和五六年一月一四日に編成業務部から更に制作部に再配転を命ぜられ、現在は同部に所属して、アナウンス業務としてコマーシャル、枠付け、局のお知らせ、月一回のニュースを担当するほか生ワイド番組のディレクター業務を週一回担当していることは前認定のとおりであるが、右再配転は、原判決が会社に送達された日(この日が昭和五五年一二月二五日であることは、本件記録上明白である。)から約二〇日後になされていることを考えると、会社の自主的な判断に基づく配転というよりは、被控訴人が会社に対し、アナウンサーとしての業務に従事する労働契約上の地位にあることを仮に定める旨の原判決主文第一項に従つてなされたものと認めるのが相当であるし、控訴人は右の原判決を不服としてその取消しを求めて本件控訴を提起しているのであつて、これらの事実を総合すると、右再配転の事実から本件仮処分の必要性を否定し去ることはできない。」を加える。

二よつて、当裁判所の右判断と符合しない原判決を主文のように変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(貞家克己 近藤浩武 渡邊等)

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